海外で働く・住むということについて、株式会社マキタのドイツ拠点に赴任されている、経済学部卒業生の相川さんに伺いました。
インタビュアー:経済学部2年 高島宏太
答えてくれた方:株式会社マキタ 相川さん
〇株式会社マキタの基本情報
本社所在地:愛知県安城市
創業:1915年
売上高:7,392億6千万円(2022年3月期:連結)
5,366億7千7百万円(2022年3月期:単独)
従業員数:20,233名(2022年3月31日現在:連結)
3,245名(2022年3月31日現在:単独)
株式会社マキタのホームページより
https://www.makita.co.jp/company/index.html
Section1 株式会社マキタについて
Q1:株式会社マキタの主な事業領域は何ですか?
A1:電動ドリルやカンナなどの電動工具に加え、草刈機や芝刈機などの充電式園芸用機器、充電式クリーナーなどです。一般消費者向けの製品も増えてきましたが、どちらかというとプロ向けが多いと思います。DIY用品も製造・販売しており、基本的にホームセンターなどで売られていることが多いです。
Q2:電動工具業界において、世界中で大きなシェアがありますが、経営の特色や会社として大切にされている価値観などはありますか?
A2:質実剛健(飾り気がなく、まじめで、強く、しっかりしているさま(注1))です。財務の仕事をしているのですが、財務の面でも、積極的に投資はするが、大きな賭けはせず着実にやっている印象です。他の部署を見ていても、地味に、でも着実にという社風だと感じます。
(注1)コトバンクより https://kotobank.jp/
Section2 海外(ドイツ)でのお仕事について
Q3:どのような経緯で、ドイツで働くことになったのですか?
A3:入社して財務部に配属されたのですが、若いうちから海外赴任するというのが前提になっていました。2年間、日本の財務部で仕事をした後、ドイツへ赴任することになりました。赴任する国はどこでも良かったのですが、強いて言えば、なんとなくヨーロッパに行ってみたいという思いはありました。
Q4:海外で働く上で大変なことや、苦労はありますか?
A4:苦労だらけですね(笑)。日本で働いていたときとの一番大きな違いは、カバーしなければならない範囲が広く、責任も重いことです。日本では、一担当者として財務や税務を担当しており、業務の幅が今よりは狭かったですし、困ったことがあれば上司を頼ればいいというある種の甘えもありました。もちろん今も色々な人にサポートしてもらっていますが、ドイツでは、ドイツ工場の財務の責任者ですので、決算書のすべてにおいて最終的には自分に責任があります。また、キャッシュ(現金)が足りなくて、社員に給料が払えないなどということが万が一にもないように、キャッシュにも目を配らなくてはなりません。
Q5:逆に、海外で働く上で感じるやりがいや学びはありますか?
A5:先ほどの、大変なことや苦労することと表裏一体ですが、幅広い業務や責任のある仕事を経験できることです。大変なことが多いため、大きな壁をなんとか乗り切ることも学べると思います。ドイツで学んだ仕事の進め方や、いろいろな案件が同時並行で進むといった大変な状況でも、なんとか仕事を前に進める力を身につけて、日本で生かしていきたいと考えています。
Q6:労働環境や働き方など、日本との違いはありますか?
A6:休みに対する考え方が違います。ドイツでは、働く人を手厚く保護します。例えば、日本では病気になった時のために有給を使わないでとっておくというのは、一般的なことかと思います。ですが、ドイツでは診断書を持って行けば有給の病欠になるため、そういったことはありません。
現地スタッフは、朝6時にはじめて午後3時には帰るとか、金曜日は午前中だけで帰るなど、柔軟な働き方をしている人もいます。今の赴任先ではある程度までしか残業代が出ないうえ、自分がやる仕事はここからここまで、とはっきり決まっているので、自分の仕事が終わるとさっと帰っている印象です。全体的に日本より労働時間が短いようですが、それでもかなり経済的に豊かなので、すごく不思議です。
1人1人の仕事の担当領域がはっきりと決められているため、自分の仕事はしっかりやります。一方で他のことはよくわからないという感じで、他の人に聞けばわかることも、聞かずに自己完結して終わらせてしまう、ということも何度かありました。
Q7:後輩に向け、海外で働く魅力や海外で働く際のアドバイス・注意点などあればお願いします。
A7:先ほどお話ししたとおり、出向先では責任が重く、一スタッフとして日本で働くだけでは得られない経験ができます。また、海外で暮らす経験は、視野を広げてくれると思います。アドバイスですが、月並みですが英語力は大切です。現地スタッフとのやりとりは基本英語ですし、それはどの国でも同じなのではないかと思います。また、全く違うバックグラウンドを持つ人たちと働くことになりますし、年上の人が部下になるというのも普通ですので、現地スタッフにリスペクトを持って接することが大切です。加えて、その国の歴史や背景を知る必要もあると思います。例えばドイツでは、飲食店で店員さんを呼ぶときに、手を上げないなどといったことです。これは、ナチスのポーズを連想させるためです。
Section3 大学在学中の外国語学習について
Q8:在学中に選択されていた第二外国語は何ですか?
A8:スペイン語です。話者が多く、ローマ字に近いことに加え、なんとなく言葉の響きがいいと感じたので選択しました。
Q9:他の言語と迷ったりはしましたか?
A9:実は、第一希望は中国語でした。先輩から楽だと聞いたからです(笑)。
Q10:実生活で役に立ったことはありますか?
A10:スペイン語はほとんど覚えていないですね(苦笑)。スペイン語はイタリア語と近いので、イタリア料理店などで、見覚えがある単語があったりするくらいです。実際、ビジネスも留学も英語が多いです。ただ、現地語を話せると距離を縮めることができますし、とても喜ばれます。
Section4 ドイツでの生活について
Q11:ドイツどのあたりにお住まいですか?
A11:ハンブルクという、ドイツ北部の港湾都市です。食文化は北欧に近いというくらい北にあります。エルベ川が流れており、海から百キロ離れているにもかかわらず、コンテナ船が来ています。第二次世界大戦で破壊されたあと、歴史的な建物風に再建されたため、近代的でありつつも歴史を感じさせる町並みが広がっており、とても雰囲気がいい街です。休日はハンブルク日本人会の建物内でゆっくりしつつ、町中をよく散歩しています。
MapswireによるPixabayからの画像 https://onl.bz/uYckRGX (都市名は高島が追加)
Q12:ハンブルクの気候はどうですか?
A12:冬は一日中0℃以下の日もあり、車の窓ガラスが凍ってしまうレベルでとても寒いです。夏は涼しくて、過ごしやすいです。雨も比較的多くて、そこまで乾燥することもなく、日本人にとっては過ごしやすいと思います。
Q13:物価はどうですか?
A13:去年(2022年)の5月に赴任したばかりですが、ガソリンが非常に高くなっています。また、電気代もかなり高騰しており、現地スタッフには補助金が出たほどです。しかし、物価が上がったらその分賃金も上がります。人材確保のために、他社と同じくらい給料を上げていくことが必要です。また、物価上昇や賃上げは、価格転嫁を行う理由の一つとなります。
Q14:ドイツは移民を積極的に受け入れており、外国人比率がかなり高いですが、少し気になるのは治安です。ハンブルクの治安はいかがですか?
A14:実際に外国人は多いです。アジア系だけでなく、アフリカ系、中東系など、人種も非常に多様です。治安ですが、危ないと思ったことはこれまで一度もありません。ハンブルクは割とお金持ちが多いこともあるかもしれませんが、事件などはとくに聞きませんし、ドイツ全体として治安はいいと思います。ハンブルクも含め、大きな駅周辺などでは少し注意が必要なところもありますが、普通に暮らす上では特に気になりません。
Q15:ドイツで生活する上で、ドイツ語はどの程度必要ですか?
A15:ハンブルクでは、中心部なら大体英語が通じますが、中心部から外れるとあまり通じない印象です。ただ、ドイツ語ができなくても、生活する上でそこまで困ることはありません。ドイツでは、大卒ならなんとなくは英語を話すことができ、日本よりも話せる人が多い印象です。ドイツ語は、話せると喜ばれますし、交遊の幅が広がると思うので、話せた方がいいなと思っています。
Q16:日本と比べて、ドイツのいい点・悪い点は何ですか?
A16:いい点は、ヨーロッパ風の町並みなど景色がきれいなことです。また、フレンドリーな人が多いです。外国人の私にも気さくに話しかけてくれますし、職場では、誰かの誕生日にはみんなで寄せ書きやプレゼントを送ったりします。また、アウトバーンで140キロ出したのはいい思い出です。悪い点は、日曜日に休むレストランやスーパーが多く、駅やガソリンスタンド併設のコンビニ以外はどこも開いていないことです。以前ベルリンに行ったとき、博物館も日曜休みでした。閉店法(注2)という法律のためだと思われます。
(注2)
閉店法:原則として、①日曜・祝祭日、②月曜日から土曜日までの午前6時までの時間,及び20時以降の時間には、顧客との商取引を停止しなければならない。
独立行政法人労働政策研究・研修機構「諸外国の労働契約法制に関する調査研究」報告書
第1章 ドイツ(2005)P47より引用
https://www.jil.go.jp/institute/reports/2005/documents/039_01.pdf
Section5 ドイツの文化について
Q17:おもしろい、または独特な文化や慣習はありますか?
A17:日本語で何か言われて、わかったというときに「あっ、そう」といいますよね。実は、ドイツ語でもこのようなときに「あっそう」というのです。慣習というと、ドイツだけでなく、欧米全体がそうだと思いますが、日本や中国と違って、料理を取り分けて食べることはなく、基本一人一皿です。以前、中華料理屋に行ったとき、取り分ける料理をドイツ人の同僚が人数分頼んでしまい、食べきれなくなってしまったことがありました。また、大きな公園が多いため、ひなたぼっこをしている人が多いです。
Q18:ドイツ=ビールとソーセージというステレオタイプがありますが、これは本当ですか?
A18:ハンブルクにいると、最近の若いドイツ人は、あまりビールを飲まず、ワインを飲む人が多い印象です。ですが、すごくいろいろな種類のビールが売られていますし、ドイツ南部のミュンヘンでは、ビールがかなり飲まれているようです。ソーセージもかなりの種類が売られており、ステレオタイプは割と当たっていると思います。
Q19:大きなくくりになってしまいますが、ドイツの方はどのような人が多いですか。
A19:まじめな方が多いです。仕事などでも、自分のことについてはしっかりしている印象です。また、仕事とプライベートはしっかり分けていて、個人主義というか、自分は自分という感じです。
インタビュアーまとめ
一般的に治安がよく、強い経済力もあるドイツだが、美しい町並みや町中に数多くある公園など、住環境も非常に良さそうだ。また、閉店法や有給の病欠など、労働者への配慮が手厚い。個人主義的で柔軟な働き方をしつつも、経済的に非常に豊かであり、ドイツで働けば、仕事の仕方や仕事に対する考え方などについて、新たな価値観や学びを得ることができるのではないだろうか。
-了